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映画『ミスティック・リバー』の研究(ネタバレ有)分裂した物語をつなぎとめた一つの「裏」

ミスティック・リバー

ミスティック・リバー画像引用元:ⓒ WarnerBros.

2003年公開のミステリー映画。監督クリント・イーストウッド、脚本ブライアン・ヘルゲランド。138分。

これまで映画をヒーローズ・ジャーニーに当てはめて研究してきましたが、もう説明できない映画が出てきてしまいました。

ジミー、ショーン、デイブにそれぞれストーリーがあり、群像劇ではないのですが、ジミーとデイブのラスト以外は話をする程度であまり深く絡むことはありません。

主人公が誰かという点ですが、娘のケイティーが殺されるという悲劇で観客を同情させているのでジミーが主人公だと思います。足を洗ったはずのジミーが再び殺人者に変化もしています。しかし実際何をしているかとみると、悲しみ、墓の準備をして、最後にデイブを殺すだけであり、それまで仲間に聞き込みをさせたり、セレステの告白によって比較的簡単に情報を得ます。自ら聞き込みをしたり、デイブが犯人と疑い始めるなどならわかりますが、主人公にするにはとても受動的で、障害がありません。

ではショーンはというと、こちらも障害がありません。相棒・パワーズとの意見の違いはありますが、比較的容易に犯人を突き止めます。

デイブもほぼ、悩んで、話す。というぐらいしかしていません。

このように主人公もはっきりせず、試練や中盤にあるはずの最大の危機も特にない。ヒーローズ・ジャーニーに当てはめるには少し無理があると感じました。

……しかし傑作です。とても面白いです。
なぜ面白く最後まで観てしまうのか研究してみましょう。

映画『ミスティック・リバー』のヒーローズ・ジャーニー

今回はヒーローズ・ジャーニーではなく、プロットとして振り返ります。ターニングポイントははっきりしています。

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『ミスティック・リバー』のプロット

ミスティック・リバー画像引用元:ⓒ WarnerBros.

子ども時代のジミー、ション、デイブが遊んでいる時、デイブが誘拐される。4日間監禁されたのち、デイブは自力で逃げ出す。

25年後。
ジミーは商店の店主、ショーンは刑事になり、デイブは結婚して息子がいる。

ジミーの娘、ケイティーが夜に友人と遊ぶと話す。明日は妹の初聖体があると念を押すジミー。
ショーンは結婚したが、今は別居をしている。妻・ロレーンからは時折無言電話がかかってくる。
夜、バーで飲んでいるデイブ。ケイティーと友人たちが現れ、騒ぎ始める。
深夜。デイブが血まみれで帰ってくる。妻・セレステに強盗に襲われたと話すが、混乱している。
翌朝、ケイティーが帰っていないことに気づくジミー。
店を手伝い、妹の初聖体の儀式に出席するジミー。ケイティーを心配する。

ミスティック・リバー画像引用元:ⓒ WarnerBros.

銃で撃たれた跡のあるケイティーの車が発見され、警察の捜索が始まり、ケイティーが死体で発見される。(第一TP)

ショーンが捜査を始める。ケイティーは彼氏のブレンダンとともにラスベガスで結婚し、生活する計画があったことを突き止める。
セレステは、あの夜の強盗事件のことが新聞に載っておらず、デイブに対し不信感を募らせる。
ブレンダンをウソ発見器にかけたが彼はシロだった。ショーンはケイティーの寄ったバーにデイブが居たことに気づく。
デイブに話を聞くショーン。デイブは強盗のことは話さず、手の怪我も嘘をつく。

ミスティック・リバー画像引用元:ⓒ WarnerBros.

ジミーはケイティーに警察よりも早く犯人を探し、殺すと誓う。(ミッドポイント)
銃の弾道検査により、ブレンダンの父・レイが昔強盗で使った銃と同じことが判明する。

ショーンの相棒のパワーズはデイブを疑い、彼を不当に連行する。デイブの車のトランクには大量の血があった。しかしデイブは取り調べをうまくかわし、帰される。

レイの経歴を調べ、かつてジミーを警察に告発し、その後姿を消したことがわかる。

ジミーはデイブが警察に連行されたと聞き、さらにセレステが事件の夜のことを話し、デイブがケイティーを殺したと伝える。(100分)

ブレンダンを取り調べるショーン。銃のことは知らないと話すブレンダン。

ジミーの仲間がデイブを飲みに誘い、河沿いのバーに向かう。

少年からの通報電話を聞くショーン。矛盾に気づき、この少年が犯人だと確信する。

飲んでいるデイブ。ジミーがやってくる。

家に帰ったブレンダン、隠していた銃を取り出す。弟のレイと友人のジョンに銃を見せる。レイとジョンは逃げ出すが、殴りかかるブレンダン。
ショーンたちが現れ、2人を逮捕する。

酔いつぶれたデイブを尋問するジミー。レイも殺し、この河に沈めたと話す。デイブはあの夜、少年を買春していた男を見つけ、殺したと話すが、信じないジミー。ナイフを突きつけて脅すと、認めるデイブ。ジミー、デイブを殺す。

ショーンがジミーに会い、犯人を捕まえたと伝える。

そしてバーの裏から子供性愛者の死体が発見され、セレステからデイブが消えたと連絡があったと話す。

ミスティック・リバー画像引用元:ⓒ WarnerBros.

遅かった、と告げ、去っていくジミー。

ショーンにロレーンから電話。ショーンは謝り、ロレーンも応える。

少年野球のパレード。ジミーとショーンがそれぞれ家族とともに見ている。セレステはデイブを探し、彷徨う。

『ミスティック・リバー』のテーマ

 ジミーが話すセリフ「デイブの代わりに車に乗っていたら?」。

なぜデイブが誘拐されたのか。
たまたま家が遠くにあったからです。デイブを狙ったわけではありません。
そしてケイティーが殺された理由もありません。
たまたまレイたちが遊んでいるところに出くわしてしまったからです。ケイティーを狙ったわけではありません。

デイブも、たまたま子供性愛者を発見し、殺してしまいます。探したわけではありません。

それ以前にデイブがバーに行かなかったら、違う道を歩いていたら、違う夜だったら。
そしてショーンがもっと早く通話記録を聞いていれば……。

デイブが死ぬことはなかったでしょう。

 

偶然が人生を変える

 

神のいたずらか運命か。理由のない何気ない選択。しかしそれが人生を変えてしまうのです。

『ミスティック・リバー』をさらに詳しく

今回「ヒーローズ・ジャーニー」を捉える事はできませんでしたが、もう一つ大切な要素「三幕構成」について詳しくしてワンシーンずつみていきます。

第一幕

 オープニング。
クレジット・タイトルののち、河沿いの住宅街。ジミー、ショーン、デイブが路上でホッケーを始めるが、ボールが下水に落ちてしまう。固まっていないセメントにいたずらで名前を書く三人。デイブが書いている途中、見知らぬ男に注意される。

デイブの親に注意しに行くと言い、デイブを車に乗せる。助手席には神父。

走り去る車。見送るジミーとショーン。

ジミーとショーンは両親に話す、監禁されたデイブが襲われる、逃げるデイブ。
家に帰ってきたデイブ。ジミーとショーンが会いに行くが、窓は閉じられる。

ジミー、ショーン、デイブの背景を説明するオープニングです。

重要なモチーフの「ミスティック・リバー」というタイトルから河~住宅街へとつながっていきます。

この映画には、上からの俯瞰の映像がとても多いです。
神からの視点、と言えます。

セメントに名前を描くことで、直後のシーンでデイブがそれを見るだけで誘拐のことを思い出すようにしています。
言葉ではなく、特徴的な動きや物を使って映像で過去を思い出すようにするととてもわかりやすいです。

デイブの名前が書きかけ、というのも、デイブはこの時点で死んでしまった、ということを表しています。

車に乗っている神父がわざわざ振り返りこれみよがしに十字の指輪を見せているのも面白いです。
イーストウッドには神父や組織を悪に描くことが多い印象があります。

デイブが逃げるシーン、追いかけている男の声を大胆にも狼の声に変えているのが面白いです。
後のデイブの語りをすでに表しています。

そして窓を閉じるだけで、彼らの関係は終わったと感じますね。
そしてバーで呑んでいたデイブが、血まみれになって帰ってきます。

これまでにデイブを普通の人間のように描いていればたとえ混乱していても信じますが、誘拐された過去によってこの時点で嘘ではないかと疑いを持ちます。
セレステの視点からシーンが始まっているので、セレステの疑問と同じように観客も疑いを持つように作られています。

そして重要なのが、バーの直後にこのシーンになっていることです。

時系列で考えるとすでにデイブは子供性愛者を殺し、死体を隠しました。

しかしそれを省略、「裏」のシーンにする。

つまり観客に秘密にすることで、「デイブが何をしていたのか?」という疑問が生まれます。

この疑問が、クライマックスまで観客の頭の中に残り、今後のシーンへの興味が湧いてくるのです。

デイブは犯人なのか、真犯人はいるのか、デイブは何をしていたのか、デイブはどうなるのか。

すべての疑問は「裏」にした手法で生まれたのです。

そしてケイティーは死体となって発見されます。
ここでも、ジミーの叫びとともに、ケイティーの無残な姿が神の視点から映されます。

第一ターニングポイントです。

第二幕

 ショーンとパワーズのジミーへの質問で、ジミーの過去が説明されます。

そしてパワーズからショーンへの質問で、誘拐事件の犯人たちは死んだことが説明されます。

誘拐事件が今回の事件と無関係であることを早めにはっきりさせることで、余計な疑問はもたせないようにしていると思います。

ショーンは事件の捜査を進め、ジミーは犯人を捜し、殺すと決め、デイブは誘拐のトラウマが徐々に表れ崩壊していき、セレステはデイブへの疑惑が膨らむ。

この4本のストーリーが並行して描かれていきます。
どのシーンも無駄なく物語を進めていますが、起伏なく単純なシーンだと思います。

公園付近の老婆やブレンダンの母、酒屋の店主などは個性が描かれていて面白いですね。

真犯人のレイとジョンも姿だけは登場させています。レイは二回登場し、しゃべられない特徴を持たせて覚えやすくしていますね。

ジミーはデイブが連行されたことを知り、さらにセレステがデイブが殺したと伝えます。これが第二ターニングポイントで、セレステのストーリーは終わります。

第三幕

ここからジミーとデイブのストーリーが交錯していきます。

デイブがサベッジ兄弟の車に乗り込むシーンは、誘拐シーンと全く同じように撮られています。
後部座席を振り向き手を出すところもはっきりと反復しています。
デイブは車に乗り、デイブの人格は死んでしまいました。

そしてこのシーンでも再び車に乗り、デイブは本当に死んでしまうのです。

ショーンが通報電話を聞いて犯人が少年と気づきますが、うっかり聞いていなかったとはかなりお粗末だと思います。

物語は偶然から始まることが多いですが、映画の中の場合、状況が悪化するような偶然はとても効果的です。

テーマにも書いたたくさんの偶然が命を失うということにつながっていきました

しかしこの場合、偶然によって問題を解決してしまっています。これでは、都合がいいと思われても仕方ありません。しかもこの終盤で。
偶然は使い方が重要なのです。

そしてクライマックス。

ショーンは真犯人のレイとジョンを捕まえる。ジミーはデイブに尋問し、殺す。
この二つが並行して描かれています。

 例えば逮捕後にショーンがデイブとジミーが消えたことを知り、二人を探して処刑まで間に合うかどうか、というようなこともあり得ますが、それもなくそれぞれ最後まで独立して終わります。

ジミーが銃で殺すシーンをデイブ目線で下から見上げるように映しています。
この瞬間はジミーが神、のように表していると思います。

そしてラストのパレードのシーン。

ジミー、ショーンはそれぞれ家族とともにいて、セレステはデイブを探してさまよっています。

ショーンとセレステは目が合いますが、話しかけません。
そしてセメントの名前、ゆっくりと流れていく河が映り、終わります。

雄大に流れるミスティック・リバー。しかしその水面の下には、レイとデイブの死体が沈んでいます。

一見すると幸せな家庭を持つジミーとショーンも、人に言えない秘密を抱えて生きていくのです。

さいごに

ストーリーも独立していますが、登場人物もかなり自分勝手な考えを持ったキャラクターが多く登場します。

ジミーの義理の父はケイティーとアナベスのことしか考えず、ジミーの怒りを買います。
そしてケイティーも、ジミーに話さず勝手にラスベガスに向かうつもりでした。

セレステは人に相談せず自分の中で考えて結論づけ、アナベスはいとこにも関わらずそんなセレステを批判しています。

ショーンもジミーがデイブを殺したと知った直後に、ロレーンが帰ってくると知るとすぐに笑顔になります。そしてセレステには声をかけません。

自分のことしか考えないキャラクターと独立したストーリー。

すべてが分断されていましたが、それをつなぎとめさせたのはたった一つの「裏」。

もしもデイブの事件が描かれていたら、まったく面白くない映画だったでしょう。

物語にとって秘密と嘘はとても重要な要素なのです。

ちなみに現在公開中、クリント・イーストウッドが監督・主演した「運び屋」はとてもまっとうに描かれた傑作です。こちらもぜひ!

次回はエディ・マーフィ主演のコメディ映画「デイブは宇宙船」を研究したいと思います。

 

– fin –

ABOUT ME
akira
akira
1990年生まれ。SNSとは無縁の人。 映画を、物語・シナリオの側面から深く「面白さ」を知ってもらうために「movie labo」で連載スタート。 生粋のリバプールファン。
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